Koichi ITO Photo exhibition: 「HOPE」 (2015 Tokyo, Japan)
HOPE:
ぼくは、ぼくが溶けていったあとのことを、この淡い色のことを覚えていることができるだろうか。珍しいものでもなんでもない、ありふれた、取るに足らない自分のこの気持ちと、記憶の色を、覚えていられるだろうか。それとも、誰かが覚えていてくれることがあるのだろうか。
歩き、育ち、着て、食べて、溶け、朽ちていくまでの記憶。笑って、泣いて、写真を撮って、立ち止まって、考えて、また笑って、そうしているぼくの記憶。
ぼくも、あなたも、みんなも、吹く風も、立ち込める雲、ぱきぱきと鳴り割れ落ちる枝、朽ちていく花も、電車の音、黒い傘が回って回りきらずに戻っていく色、踏まれた定期、そっぽを向く犬、マスクで曇る眼鏡、カチカチ鳴るエレベータ、忘れかけて焦げたパンの香り、高速バスの座席の硬さ、燃え落ちた網も、傷も、みんな、全てが、本当に美しいのだ、美しかったのだ、なのに、ねえ、どうやって過ごそうか、どうやって過ごしていけるのだろうか。
幸せってなんだろうか。ぼくはいま幸せだろうか。幸せを目指さなければならないのだろうか。あなたはいま幸せですか。かつて幸せだった時がありましたか。ぼくはあと何度花火をして、あと何度みんなでご飯を食べて、あと何度ビールを飲むことが出来るんだろう。あと何度笑い、あと何度泣いて、いつまで溶けてしまわずにいられるんだろうか。
僕はこうやって物語を書き換えていく。
こうやってぼくは物語を書き換えて、組み替え、磨き、そぎ落として、紡いで、紡がれていくこの話を、ぼくはこれをなんと語り、詠うことができるだろう。いま語る言葉を、画を、未来のぼくは、未来のあなたはどう捕まえてくれますか。
あなたはあなたの道を進めばいい。ぼくは、いまはぼくが自分自身を超えて創造することなど出来やしないだろうことから目を背けることにした、ぼくは、かつて老人が語ったように、ぼくの愛をたずさえ、創造をたずさえて、あなたの流した涙とともに、ぼくの孤独のなかに歩み、自分を焼き尽くそうと試みて、そして、語ることにしたんだ。
希望。
語りをよすがに、ぼくはきっと溶けて消えていくのだろう。でも、紡がれた物語は遺りつづける。形を換え、人を換え、言葉を、時代を、韻律を換え、色を換えて、何度だって語られる、語られつづける。これまでも、これからも、何度も、何度でも、何度でも。
伊藤公一
2015.12.21
MEMORY OF " Exhibition: HOPE "
【展示概要】
伊藤公一写真展「 HOPE 」
Photo Gallery Place M
http://www.placem.com/
東京都新宿区新宿 1-2-11 近代ビル 3F
2015/12/21mon. - 2015/12/27sun. 12:00〜19:00
【展示内容 (プレスリリースより) 】
本写真展では、作者本人が「紙芝居のような」と形容する、主に 2012年から 2015年にかけて撮影された人物写真や風景写真、スナップ写真からなる心象風景を展示します。
自らは社会のなかで “モブ” として埋没しており、今後も埋没し続けていくのだという意識。そのなかで、モブたる自己の感情もまた平均的なものなのか、はたまた、固有の存在として特別な価値を持つことができるのか。
そんな自問自答をとおして見つめたモノやコトを巡る考察を写真の形にまとめた、作者初の個展です。カラー 30点。
【掲載情報】